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韓国大統領選まで3カ月(上)壁にぶつかった「朴槿恵」

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 韓国大統領選挙に出馬するのかしないのか気を揉ませてきたソウル大学の安哲秀(アン・チョルス)教授(50)が9月19日、遂に出馬を表明した。これでようやく、韓国大統領選挙は与党・セヌリ党の朴槿恵(パク・クネ)元代表(60)、野党・民主統合党の文在寅(ムン・ジェイン)議員(59)、無党派の安哲秀教授という「ビッグ3」が出そろった。
 韓国の大統領選挙の投票日は12月19日で、もう3カ月を切った。投票日までの最大の焦点は野党・民主統合党の文在寅議員と安哲秀教授の間の候補一本化が実現するかどうかにある。候補一本化が実現せずに「ビッグ3」がそのまま選挙戦に突入すれば朴槿恵氏の勝利がほぼ確実視されているからだ。一方、韓国の現時点での各種世論調査では、安哲秀教授でも文在寅議員でも候補が一本化されれば朴槿恵元代表と拮抗もしくは優位という結果が出ている。
 その意味で、投票日までの最大のイベントは野党候補の一本化ができるかどうかである。
 

「圧倒的人気」だったが……

9月24日、記者会見を開いた朴槿恵氏 (C)EPA=時事

9月24日、記者会見を開いた朴槿恵氏 (C)EPA=時事

 与党、セヌリ党は8月20日に党大会を開催し、大統領候補に朴槿恵元代表を選出した。セヌリ党の大統領候補を選ぶ予備選には朴槿恵氏のほか金文洙(キム・ムンス)京畿道知事や金台鎬(キム・テホ)議員など5人が立候補した。朴槿恵元代表と厳しく対立していた鄭夢準(チョン・モンジュン)議員や李在五(イ・ジェオ)議員は予備選をボイコットした。予備選の結果は朴槿恵氏が84.0%という圧倒的な支持を得て、2位の金文洙知事の8.7%に大差をつけ圧勝した。
 朴槿恵氏は候補受諾演説で「今、われわれが直面している内外の環境は極めて難しい。多くの国が経済危機の中で漂流している。北韓(北朝鮮)の挑発や核威嚇、領土葛藤や北東アジア秩序の再編と、どれをとっても難問だ。こうした危機の時代には準備された指導者が必要だ。不安な時代には安定した指導者が必要だ」と訴え、「準備され安定した指導者」である自分自身の必要性を訴えた。
 大統領候補を選ぶ韓国の主要政党での予備選では、1997年に新政治国民会議で金大中(キム・デジュン)氏が77.5%を、2002年にハンナラ党で李会昌(イ・フェチャン)氏が68%という高い支持率を得て候補に選ばれたが、朴槿恵氏の84%という数字はこうした例を上回る圧倒的なものだった。
 与党の惨敗が予想された4月の総選挙では劣勢を覆して152議席を獲得し、選挙に強い朴槿恵元代表の評価を高めた。朴槿恵氏にとっては、5年前の予備選で李明博(イ・ミョンバク)大統領に僅差で敗れて以来、満を持しての戦いであっただけに、予想された圧勝ともいえる。
 朴槿恵氏が大統領に当選すれば初の女性大統領、父・朴正熙(パク・チョンヒ)大統領と初の親子の大統領となる。

相次いだ側近のスキャンダル

 だが、「朴槿恵で決まり」という見方は、もはや過去の話だ。朴槿恵氏の大統領への道はそれほど平坦なものではない。
 8月の党大会前には総選挙の公認に関連し、朴槿恵氏の側近、玄伎煥(ヒョン・ギファン)元議員に違法な政治献金を渡した疑いでセヌリ党の女性政治家・玄永姫(ヒョン・ヨンヒ)議員が検察当局の事情聴取を受けた。両氏は容疑を否定したが、同党は「党の威信を傷つけた」として2人を除名した。
 さらに、別の政治資金をめぐるスキャンダルが浮上し朴槿恵氏を悩ませている。予備選で朴氏陣営の共同選挙対策本部長を務めた洪思徳(ホン・サドク)元議員(69)が昨年から今年にかけて企業経営者から6000万ウォン(約420万円)の不正な選挙資金を受け取ったとして、中央選挙管理委員会が9月17日に政治資金法違反容疑で洪元議員を検察に告発した。洪氏は朴槿恵氏に迷惑が掛かってはと同18日にセヌリ党を離党した。
 その上、その翌日の9月19日、与党・セヌリ党の防衛・安保問題の専門家で朴槿恵氏に近い女性政治家の宋永仙(ソン・ヨンソン)元議員(59)が、ある事業家に「大統領選に1億5000万ウォン(約1050万円)必要だ」と求めた録音が暴露された。宋元議員は事業家が意図的に自分に接近して来てはめられたと釈明したが、セヌリ党は問題の拡大を恐れて宋氏を除名した。
 いずれもクリーンを売り物にしている朴槿恵氏だけに手痛い打撃だった。
 それだけではない。安哲秀氏に近い弁護士が9月6日記者会見し、与党セヌリ党の朴槿恵陣営の広報担当者が電話をしてきて「安氏が出馬すれば終わりだ。安氏の不正を知っている。30代の女性と最近会った事実や賄賂事件を知っていると脅してきた」と暴露した。安氏に脅されるような事実はないとし、脅迫をしてきた朴氏陣営に釈明を求めた。朴氏側の広報担当者は友人同士の話で世間に出回っている話を伝えただけと釈明した。しかし、この電話はタクシーの中でしたもので、タクシーの運転手が複数のメディアに「友人同士の話ではない。脅迫調だった」と証言し問題はさらに拡大した。

「父・朴正熙」の評価をめぐり

 こうした悪材料とともに朴槿恵氏が直面した難関は父・朴正熙大統領に対する歴史的な評価についてだった。朴槿恵氏には、良きにつけ悪しきにつけ「朴正熙大統領の娘」である事実がついて回る。
 朴槿恵氏は8月20日にセヌリ党の大統領候補に選出されると、その翌日にソウル市内の金大中元大統領の墓地と韓国南部の金海にある盧武鉉(ノ・ムヒョン)前大統領の墓地を参拝した。21日には盧武鉉前大統領夫人の権良淑(クォン・ヤンスク)さんを、22日には金大中氏夫人の李姫鎬(イ・ヒホ)さんを表敬訪問した。金大中元大統領は父・朴正熙大統領の宿命のライバルであった。朴槿恵氏は「『父の時代に多くの被害を受けられ苦労されたことを娘として謝罪する』と金大中大統領に申し上げ、金大中大統領はこれを受け入れて下さった」と李夫人に語った。
 これに対し野党・民主統合党などから「政治ショー」との批判も出た。文在寅氏は「国民統合のためには望ましいことだ。心からの参拝であってほしい」とやや冷めた語り口だったが、安哲秀氏は「これこそ国民が願う政治だ」と高く評価した。
 しかし、朴槿恵氏の「歴史認識」は自らが出演したラジオ番組が発端となって問題化した。朴正熙大統領は1972年10月に戒厳令を敷き国会を解散、同年12月に維新憲法を公布した。以後、79年10月に朴大統領が暗殺されるまでの間を韓国では「維新体制」「維新時代」という。朴槿恵氏は9月10日にMBCラジオに出演し朴正熙大統領の維新時代の代表的な公安事件である「人民革命党事件」について「大法院の判決は2つ出ている。(評価は)今後の判断に委ねるべきではないか」と語った。
 朴正熙政権は1974年4月に緊急措置4号を発令し、民青学連事件を発表した。この民青学連事件の中の重要な部分を構成するのが人民革命党再建事件だった。韓国では1964年に第1次人民革命党事件があった。維新政権はこの関係者が人民革命党を再建し、民青学連の国家転覆を指導したと発表し、関係者を逮捕した。大法院(最高裁判所)は1975年4月8日に8人の被告に死刑を宣告したが、そのわずか18時間後に死刑が執行された。当時、家族も面会できないままでの死刑執行は拷問などを隠蔽するためではないかという疑問も出た。しかし、この事件は2005年12月に再審請求が行なわれ、ソウル地裁は2007年1月に事件は当局のでっち上げであるとして全員に無罪を言い渡した。
 朴槿恵氏が「2つの判決がある」としてこの事件の評価を後世の歴史に委ねるとしたことに批判が高まった。「死刑」と「無罪」の判決を同列に扱い、過去の誤りを正した判決を否定する歴史認識に対する批判で、朴槿恵氏の支持率がじりじりと下がり始めた。

国民と対話できるか?

 朴槿恵氏は9月24日に記者会見し、1961年の5.16軍事クーデターや70年代の維新時代、人民革命党事件などについて「憲法の価値を損ない、韓国の政治発展を遅らせる結果を招いた。政治で目的が手段を正当化できないことは過去もそうであったし、これからもそうであるべき民主主義の価値であると信じている」と語り、父親の朴正熙大統領の独裁体制を批判した。
 朴槿恵氏はこれまで5.16軍事クーデターについては「国を救うための決断」(2007年)「不可避な最善の選択」(今年7月)などとむしろ評価してきた。維新体制についても「賛否両論があるために国民と歴史の判断に任せるしかない」(今年7月)としてきた。8月10日のラジオ出演でも「維新に対して当時、父は『私の墓につばを吐け』とまで言って国のために心を痛め、気をもんでいた。その中にすべて含蓄されている」と語り、維新の評価は後世に委ねるという姿勢を示していた。
 朴槿恵氏はこの日の会見で時には声をふるわせ「子供が親を評価すること、さらには公の場で過ちを指摘することはどれだけ大変かよくご存じだと思う」と苦渋の心情を語った。この日の会見は「大統領の娘」ではなく「大統領候補」としての自らの立場を示したといえる。
 朴槿恵元代表は、世論調査では40%前後の支持率をずっと維持してきた。しかし、これに対する上乗せがないのが弱点だ。保守の固い支持層があるものの、無党派の浮動票を引きつける魅力に欠ける。
 朴槿恵氏には「原則を守る」という保守層を引きつけるイメージがある一方で、庶民からは「不通」(意思疎通ができない)というイメージがつきまとう。
 現在の韓国社会のキーワードの1つは「疎通」(ソトン)である。政治指導者に国民との対話ができる資質があるのかどうかが問われている。朴正熙大統領の長女として育ち、母親の陸英修(ユク・ヨンス)女史が凶弾に倒れてからはファーストレディの役割までした朴槿恵氏だが、庶民生活を本当に分かっているのかという疑問を抱く有権者は多い。「不通」というイメージを払拭し、国民との疎通ができるかどうかが朴槿恵元代表に問われている。
 父、朴正熙大統領への批判的な歴史的評価について「大統領候補になった以上、この部分でより冷静になり国民と共感する必要があると考えた」と述べたのは、原則論者の朴槿恵氏が国民との疎通に重要な一歩を踏み出したことを意味した。


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